芸人、神谷の伝記
今とても話題になっている「火花」を読みました。
先輩芸人である神谷と後輩芸人の徳永。彼ら師弟を描く物語です。
漫才のようにテンポ良く進んでいくので、読みやすい展開になっています。
作中に、
「お前大学出てないんやったら、記憶力も悪いやろうし、俺のことすぐに忘れるやろ。せやから、俺のことを近くで見てな、俺の言動を書き残して、俺の伝記を作って欲しいねん」
という神谷のセリフが出てきます。
師匠が弟子に、伝記を作って欲しいという条件を提示するシーンです。
お客様の自分史の聞き書きをする仕事に携わる者としては放っておけないセリフです。
純粋で変わり者の神谷は自分の存在意義を探しているようで、なかなか親近感が湧く人物像となっているので、神谷や徳永を身近な知り合いに照らし合わせて読む読者も多いのではと思います。
また、芸人という職業の「売れるか分からないけど挑戦する」という心境が、「リスクを取ってチャレンジしている」という人の心に深く響くのではないかと思います。
テレビなどの表舞台に立てる芸人はごく一握り。
その他大多数は、辞めて行ったり、細々と生活しながらも芸人を続けているというそれぞれの人生が自分史として現在進行形で続いていきます。
最後の1ページには、
ただ神谷さんはここにいる。存在している。心臓は動いていて、呼吸をしていて、ここにいる。神谷さんはやかましいほどに全身全霊で生きている。生きている限り、バッドエンドはない。僕達はまだ途中だ。これから続きをやるのだ。
という文があります。
伝記というキーワードだったり、このような一文であったり、
「各々の自分史の1ページを今現在生きている」
というテーマなのではないでしょうか。
集大成としてまとめるだけが自分史ではない。
これからをどう生きるのか。どんな生き方がしたいのか。
これらを考える機会だったり、道具として使う自分史が今注目されています。
だからこそ、2人の芸人の自分史を描いたこの作品が話題となっている気がします。