田中角栄の自分史(財閥トップの目にとまる編)

先日、田中角栄の自分史シリーズで
割れた高級カットグラス」のお話を
しました。

今回はその続編となる
「財閥トップの目にとまる」
をお話したいと思います。

常人であれば、近づけないであろう
財閥のトップにどのようにして近づき、
どのように懐に潜り込むのか。

田中角栄の生き方は、
現代を生きるあなたにも参考となるでしょう。

財閥トップの目にとまる

角栄が初めて上京した大雪の日、
大河内邸の書生に入ろうと訪ねたが
もちろんどこの誰かも分からない青年を
入れるわけにはいかない。

大河内氏とは理研コンツェルンの総帥である。

財閥のトップであり、日本を代表する
科学者である。

書生にしてもらうのを断念してから二年半が
経過した。

角栄は大河内氏の元に近づき、自分の存在を
知ってもらう機会を窺い続けていたのでは
ないかと言われている。

理研には、所長である大河内氏のほかに、
世界的に名声のある科学者が何人もいたが、
所員が「先生」と呼ぶのは
大河内氏ただ一人であった。

朝、出勤時に大河内氏と会った所員は
彼が乗るエレベータには乗らない。

「先生」を畏敬しているので、遠慮するのである。

ある日の朝、角栄はビルに入り
エレベータを待っていた。

五階にいる仕事上の付き合いがある中野氏を
訪ねるためである。

理研企画設計課の機械技師である中野氏とは
ときどき会っていたらしいが、
角栄が理研に勤める前であったか、
後からであるのかは語っていない。

エレベータの前には、理研の社員が五人ほど
待っていた。

角栄は急いでいたので、扉が開くと
振り向きもせずエレベータに乗り込んだ。

角栄の後から、背の高い老紳士が乗り込んできた。

待っていた理研の社員たちは誰も乗ってこない。

「あっ、先生だ。」

と気付いた時には、エレベータは上昇をはじめていた。

大河内氏を眼前にした角栄は、緊張し
エレベータボーイに

「五階!」

と怒鳴るような声を出し、五階で大河内氏に黙礼して下りた。

この出会いは、
偶然に起こったとは考えられない
と分析されている。

なぜなら大河内氏は理研傘下の会社のほとんどの
取締役会長の地位についている。

彼が毎朝十時頃に出社するのを知らない社員は居ない。

理研の社員五人が、大河内氏が来たので
エレベータに同乗するのを見送ったとき、
何事にも敏感な角栄だけが気付かなかったはずは
ないと考えられている。

角栄は大河内氏に、
尋常の手段では接近できないので、
思い切った行動にでたのであろう
とされている。

角栄は大河内氏と一緒のエレベータに
乗ったことを誰にも話さなかったが、

その夜事務所に近い土佐料理店に
後輩を連れて行き、
大いに呑んで歌ったそうである。

よほど嬉しかったようだ。

その一週間後、
エレベータの前で待っていると
また大河内氏に会った。

今度は同乗しないように後ろに下がると、

「きみも乗りたまえ」

と大河内氏が角栄に声をかけた。

角栄の顔を覚えているらしい先生は
笑顔を見せている。
角栄はとても驚いた。

角栄は五階で先に下りるのは
失礼であると考え、
六階まで先生を送り、
自分は五階に戻ろうと考えた。

六階でエレベータの扉が開き、
大河内氏は下りたが
角栄はそのまま立っている。

大河内氏が、

「きみもここではないのか?」

と静かに聞いた。

角栄は驚き、緊張しながら

「私は五階です」

と答えた。

この日、大河内氏は角栄を自室に呼び
興味のある青年の生い立ち話を聞いた。

この後、角栄と理研の深い付き合いが
何十年と続くことになる。

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